楡家の人びと

青山に開業した病院一族が、明治から昭和にかけて体験した変転の物語。
作者自身の家族をモデルにして描かれている。
初代当主・楡紀一郎の強い個性が印象的だが、後半の物語はその子どもや孫たち、そして太平洋戦争に向かう社会世相を軸に展開する。

舞台は、渋谷青山、世田谷松原を中心に、箱根強羅、信州松本などに及ぶ。
世田谷区に住み、渋谷区に通うという生活を20年続けている私にとって、非常に親近感の持てる作品。

じつは最初に読んだのは中学生の時だったが、田舎生まれの小僧にとってはやや難解に過ぎた。
ユーモアに満ちた楡紀一郎のエピソードあたり以外の内容はほとんど忘れてしまっていた。

これを堪能した後は、中編小説「神々の消えた土地」を読んでみることを強く推薦する。「楡家」では不思議な存在感に包まれていた周二(モデルは作者自身)の別の一面を見せてくれるようなフィクションである。

なお、現在の都立梅ヶ丘病院(小説の楡脳病院松原分院のモデル)正門前には院長斎藤茂吉を記念する碑が建っている。

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